結婚7年目の記念日、夫は愛人が私の服に「ビッチ」と書くのを黙認した

結婚7年目の記念日、夫は愛人が私の服に「ビッチ」と書くのを黙認した

渡り雨 · 完結 · 12.6k 文字

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紹介

結婚7周年の記念日、私は休憩室で目を覚ました。胸には、赤いスプレーで大きく「ビッチ」と書かれていた。

犯人はスプレー缶を手に、無邪気に笑っている。「お姉さん、白は縁起が悪いから、赤を足してあげたの」

私が手を上げようとした瞬間、夫が駆け込んできて彼女をかばい、眉をひそめて私を責めた。「まだ若いんだ、悪気はない。ただの冗談なのに、そんなに目くじらを立てることないだろう?」

その瞬間、私は目の前にいる、我が家の力で成り上がったこの男を見て、ふと笑みがこぼれた。

彼は忘れてしまったのだろう。この天をも覆うほどの富貴が、誰によって与えられたものなのかを。

私は赤い太字の油性ペンを取り出し、震える少女に一歩、また一歩と近づいていく。

「赤がお好きなら、望み通りにしてあげる」

東野明司?

周防家を離れれば、彼が犬以下の存在になることを、思い知らせてやる。

チャプター 1

 鼻をつく刺激臭に、私は悪夢から引き戻された。

 視線を落とすと、ジャケットに滴るような鮮血色の文字が刻まれている。

『ビッチ』

 ペンキはまだ、どろりと垂れ続けていた。

「あら、お目覚め?」

 若い女が、缶スプレーをカシャカシャと弄びながら、私を見下ろしていた。

「ウチの会社、赤がイメージカラーなのよね。その白い服、ちょっと縁起悪くない?」

 彼女は悪びれもせず、そう言って笑った。

 瞬間、血液が沸騰して脳天を突き抜けた。私は一つ大きく息を吸うと、猛然と立ち上がる。女の長い髪を鷲掴みにし、力任せに後方へと引き倒した。

「きゃああっ——!」

 悲鳴を上げ、彼女の体勢が制御不能になって崩れる。

 私はその髪をさらに強く絞り上げ、ペンキの滴る箇所へ無理やり顔を押し付けた。

「さっさと拭き取りなさい!」

「離して! このクソババア、離せってば!」

 日村菫が死に物狂いで身をよじる。彼女の爪が私の手背を抉り、赤い筋が幾本も刻まれた。

「薫子!」

 休憩室のドアが勢いよく開く。

 東野明司が足早に入ってきた。

 彼は私が想像していたように激昂することはなかった。それどころか、眉をわずかに顰めただけだ。

 彼はベッドサイドまで歩み寄ると、私の手首を優しく、しかし有無を言わせぬ強さで握りしめた。

「まずは手を離そうか。痛がっているだろう?」

 私が拘束を解く。

 途端、日村菫はあからさまな被害者の顔を作り、よろめきながら東野明司の胸に飛び込んだ。

「明司ぃ……痛いよぉ……」

 東野明司は彼女を見下ろし、その瞳に痛ましげな色を浮かべる。

 彼はそっと手を伸ばし、私が引っ張り上げた頭皮を労るように極めて優しく撫でた。

「もう大丈夫だ。俺がついている」

 日村菫をあやし終えてから、ようやく彼は私に向き直った。

「薫子、今日は少し疲れが溜まっているんじゃないか? どうしてそんなに気が立っているんだ」

 彼は大袈裟に溜息をつく。

「菫はまだ若いし、世間知らずで子供っぽいところがある。だが、君はもういい歳だろう。小娘相手に本気で手を上げるなんて、大人気ない。外聞が悪いよ」

 私は胸元の文字を指差し、彼を問い詰めた。

「これが、子供の悪戯で済むこと?」

 東野明司の視線が、私の胸に書かれた『ビッチ』の文字をなぞる。

 彼の眉間の皺が、ようやく少しだけ深くなった。

「菫、いくら何でも言葉が過ぎるぞ。彼女に謝りなさい。それでこの件は終わりにしよう」

 日村菫が弾かれたように彼の胸から顔を上げる。信じられないといった様子で、彼女は金切り声を上げた。

「会社じゃ何をしたっていいって言ったじゃない! 誰もあたしに指図できないって言ったくせに!」

「東野明司、話が違う! 明司の嘘つき!」

 東野明司は頭痛を堪えるように眉間を揉んだが、何も言い返さなかった。

 日村菫は彼を乱暴に突き飛ばすと、脱兎のごとく部屋を飛び出していく。

「もう大っ嫌い!」

 東野明司の顔に、困り果てたような色が浮かぶ。

 彼は反射的に半歩踏み出し、追いかけようとした素振りを見せたが、私の視線に気づいて足を止めた。

「……あの子は直情的なだけで、根は悪い子じゃないんだ。後でよく言い聞かせて、君に謝罪させるよ」

 彼は言い訳がましくそう言った。

 胸の奥から込み上げる荒唐無稽な寒気を、私は無理やり押し殺した。そして、侮蔑の言葉とペンキにまみれたジャケットを脱ぎ捨てる。

 彼は踵を返して洗面所へ向かい、熱いタオルを絞って戻ってきた。

 そして私の手を取り、飛び散った赤いペンキの飛沫を丁寧に拭い始める。

「ねえ、東野明司。あなたの妻は一体誰?」

 私は静かに問いかけた。

 彼の手がピタリと止まる。

「何を言い出すんだ? 僕の妻は、君に決まっているじゃないか」

「そうかしら」

 私は淡々と、彼の手から自分の手を引き抜いた。

「従業員たちが、あの子のことを『奥さん』って呼んでいるのは、私の聞き間違い?」

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