第20章 夫婦契約を締結する

伊代妃奈は、まだ心臓が落ち着く場所を探しているみたいな顔をしていた。そんなところへ、いきなり脈絡のない一言が飛んでくる。

「……何?」

「君の匂いだ」

その瞬間、伊代妃奈の中で火がついた。

さっきまで生きるか死ぬかの状況だったのに、この男は自分たちが危うく二人まとめて死にかけたことより、彼女が香水でもつけているかどうかを気にしているのか。

まさか「お前の香水のせいで俺が気絶して事故った」などと言い出すつもりじゃないだろうな。

「庄司さん」

声が冷える。「今あなたが気にするべきなのは、どうして運転中に眠りかけたのか、でしょう」

「寝てない」

「じゃあ居眠りじゃなくて、疲労運転...

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