第31章 息子の「罠」

「お断りします」伊代妃奈は考える間もなく言い切った。「私の診療費は高いんです。庄司社長には、おそらく払えません」

「金額を出せ」男はそれを見越していたように淡々と返す。「……あるいは、条件でもいい」

条件?

伊代妃奈はスマホを握る指に、ぎゅっと力を込めた。

「俺を治せ。そうしたら、条件を一つ飲む」受話口の向こうの声は、抗えない確信に満ちていた。「どんな条件でも」

どんな条件でも。

伊代妃奈の胸の奥が、かすかに揺れた。

滔天の憎しみと、母としての本能が、胸腔の中で激しくぶつかり合う。

長い沈黙ののち、彼女は自分の声を聞いた。

「……いいわ」

「治してあげる」伊代妃奈はゆっく...

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