第32章 壁ドン返し

「彼女には近づくな」

新谷家勝の口調が、にわかに鋭さを帯びた。

「その女はろくでもない。おまえの父親に近づいたのだって、庄司家と新谷家の金が目当てだ」

「そうなんですか?」

伊代雲光の小さな顔に、ほどよい戸惑いが浮かぶ。

「でも、伊代先生はとてもいい人に見えますけど。お話だってしてくれますし」

「おまえに何がわかる!」

新谷家勝の声はいっそう冷えた。

「あれは詐欺師だ。おまえをいちばん愛しているのは、この世で母親だけなんだよ」

伊代雲光はしばらく黙り込んだあと、静かに口を開いた。

「おじいさま、どうして伊代先生が詐欺師だって言い切れるんですか」

新谷家勝は言葉に詰まった...

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