第52章 7年前、彼女はなぜ海外へ行ったのか

車内の空気は、どこか微妙だった。

伊代妃奈は窓の外を見ようとして――ガラスに映った庄司景悠の横顔に、思わず目を奪われる。朝の光が輪郭を縁取り、運転に集中するその姿がやけに端正で、ほんの一瞬、意識が遠のんだ。

――どくん。

場違いなく、心臓が重く跳ねる。

妃奈ははっとして、膝の上で手をきつく握りしめた。

だめ。

惹かれちゃだめ。

自分が戻ってきたのは、ただ子どものため。

もし庄司景悠が彼女の本当の目的――庄司沢弥を連れていくつもりだと知ったら、今日の「優しさ」なんて、いずれいちばん鋭い刃になって、容赦なく彼女を切り刻むだろう。

車は病院の地下駐車場へ滑り込む。妃奈は逃げるよう...

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