第55章 伊代雲光が彼にパパと呼ぶ

屋上には、伊代妃奈ひとりだけが残っていた。

広すぎる空間と、骨まで沁みる冷たさに包まれたまま、手すりにもたれて立つ。

どれくらいそうしていたのかも分からない。

やがて、屋上へ通じる扉が、また押し開けられた。

妃奈は庄司景悠が戻ってきたのだと思い、顔を上げる。

瞳の奥に、本人さえ気づいていない小さな期待が宿っていた。

――けれど入ってきたのは、ホテルの制服を着たスタッフだった。腕の中には、今にも滴り落ちそうな赤い薔薇の花束が抱えられている。

「伊代様……?」

スタッフは彼女を見るなり、ぱちりと瞬きをした。「失礼いたします。こちら、ある男性のお客様から。伊代様がお答えになったあと...

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