第88章 物覚えが悪い

ありえない。

庄司泉はあいつに叩き出された時点で、名義の資産はすべて凍結され、清算に回されているはずだ。手元に残る金も、人脈も、あるはずがない。

そのとき、会議室の扉がコンコンと叩かれた。

「どうぞ」

扉が開き、スーツ姿の男たちが数人入ってくる。説明会に参加する各社の代表者たちだ。

先頭の男は背が高く、営業用の笑みを貼りつけている――庄司泉、その人だった。

庄司景悠の顔に浮かぶ露骨な冷気など見えていないかのように、泉は会議卓の前まで歩み寄り、礼儀正しく手を差し出す。

「兄さん。久しぶり」

景悠は、その宙に浮いた手を一瞥すらしなかった。

泉の笑みが一瞬だけ引きつる。だが何事も...

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