第10章 行った先はホテルだった

池川里緒の手が、ぶるぶると震えた。

人は悲しみが極まると、本当に血を吐くのだ。

信号が青に変わり、背後からせかすようなクラクションが鳴った。

里緒ははっと我に返ると、機械みたいにアクセルを踏み込む。車は交差点を突っ切り、あのホテルを遠くへ、遠くへ――置き去りにした。

バックミラーの中で、ホテルの灯りが小さくなっていく。ぼやけて、滲んで、最後には針穴みたいな光点になり、夜の奥へ溶けて消えた。

路肩に車を寄せ、里緒は唇を噛む。涙が落ちないよう、必死に堪えた。

泣いちゃだめ。

後部座席には、息子が眠っている。

息を吸う。もう一度、吸う。けれど胸の奥に詰まった石みたいなものは、びくと...

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