第31章 なぜ譲ってはいけないのか

車内は息が詰まるほど狭く、重久瑛介の呼吸がすぐそこにあった。かつて嫌というほど馴染んだ、あの白檀の香りを連れて。

――なのに今は、それが池川里緒の喉を締めつける。

里緒は顔を背け、視線を避けた。

「重久瑛介、頭おかしいんじゃないの?」

「俺は聞いてるんだ」

瑛介が目を細める。

里緒は向き直り、まっすぐにその瞳を射抜いた。

「先輩と打ち上げしてただけ。堂々としてる」

「それより、あなたは? 前谷明梨を連れてOCのクライアントにちょっかい出してたところ、私に現場で見られたよね。そのくせ今さら私を問い詰めるの?」

瑛介の顎がきゅっと硬くなる。

「打ち上げ? 何の打ち上げだ」

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