第35章 怒らないで

池川里緒は眉をひそめた。

重久瑛介が出張?

――それも、綾斗を家に置き去りにして。

時刻を確認し、机に広げっぱなしのラフへ目を落とした瞬間、こめかみがぴくりと跳ねた。

「分かった。今から行く」

車が邸宅街へ滑り込むころには、空はすっかり夜に沈んでいた。

ガレージに車を入れ、見慣れているはずの玄関の前で、池川里緒は一拍だけ足を止める。それから指を当て、指紋ロックを解錠した。

扉が開く。

リビングの灯りはついたまま。あたたかな橙色が床一面に広がっていた。

重久綾斗がローテーブルに突っ伏すようにして絵を描いている。玄関の音に気づき、顔を上げた。

里緒だと分かった瞬間、綾斗の目が...

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