第50章 何もしてない

階下では、重久の母がまだリビングを落ち着きなく行ったり来たりしていた。里緒が降りてくるのを見つけると、上へ行く前よりもさらに顔色を失って、慌てて駆け寄ってくる。

「見つかった? 里緒、顔色がひどいじゃないの。重久瑛介、あのろくでなしがまた何か酷いことを言ったの?」

池川里緒はきゅっと親指のつけ根を爪でつねった。胸を刺す痛みを、別の痛みでどうにか押し隠す。そうでもしなければ笑みの形すら作れなかった。

「見つかりました。お義母さん、私……もう行かないと」

これ以上、重久の母の顔を見ていられなかった。何かを見抜かれてしまいそうで怖い。里緒は俯いたまま急いで靴を履き替え、ドアを開けると逃げる...

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