第62章 彼女のことを心配していたのに

池川里緒は、足を踏み出しかけたところで、ぴたりと立ち止まった。

急に目の奥がつんと痛み、熱いものが喉元までせり上がってくる。

彼女は勢いよく顔を上げ、廊下の天井灯を睨みつけるように見つめた。必死に瞬きを繰り返し、情けない涙を押し戻そうとする。

泣くな。池川里緒。ここで泣いたらだめだ。

泣いたら負けだ。

泣いた瞬間、あの汚い言葉を認めることになる。

――けれど、涙は理屈で止まってくれない。

堪えれば堪えるほど、逆に溢れてくる。

結局、涙は瞼の縁を越え、音もなく頬を伝った。熱くて、肌がひりつくほどだった。

手の甲で乱暴に拭う。なのに、拭えば拭うほど増えていく。

池川里緒は初め...

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