第一百零三話

出発の朝、ベッドの横でキャリーバッグのサイドポケットに封筒が入っているのに気づいた。

名前は書いていなかった。

凛人が入れた予備資料かと思って、なんとなく開けた——

中には、二つ折りにした画用紙が入っていた。

赤いクレヨンで描いた六芒星。線はまだ少し不安定で、各頂点を丁寧に二度なぞってあった。隣に鉛筆で小さな文字が書いてあった。間違えないように、一画一画ゆっくり書いたのがわかる文字で。

「おばあちゃんの分まで、取り返してきて。」

署名は蒼太だった。

私は画用紙をもう一度折り、封筒に戻して、ショルダーバッグの一番奥に押し込んだ。

泣かなかった。

ただ、しばらくそこに立ってい...

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