紹介
先天性心疾患を抱える息子のために毎朝午前四時に起き出して薬を煎じ、両手に刻まれた火傷の痕は、七年間の献身が残した勲章だった。
しかし返ってきたのは、夫・東雲蓮のしだいに冷えていく眼差しと、義妹・白河雪萌による、静かで巧妙な乗っ取りだけだった。
雪萌は星音の家に住み、星音の息子を懐柔し、星音が徹夜で仕上げた息子のための衣装デザインに自分の名前を刷り込んだ。
星音の作品を踏み台にして東雲グループのデザイン受注を勝ち取りながら、振り返りざまにこう言った。
「専業主婦に、デザインの何がわかるんですか」
夫の冷淡さが、婚姻関係に止めを刺した。
朝霧星音は迷わず離婚協議書を突きつけ、自分のデザイン画を抱えて業界へと舞い戻った。
知る人は少ない。
七年前に彼女が世に送り出した作品が、今もなお業界の基準点であり続けていることを。
東雲グループの現在のコア製品ラインの原点となったインスピレーションが、すべて彼女がかつて手放した没案から来ていることを。
家族のために消えていた星の光は、今度こそ、自分自身のためだけに輝く。
チャプター 1
午前四時、私は目を覚ました。
目覚まし時計ではない。身体が、自然に目を覚ますのだ。七年間、私の体内時計は明治神宮の暁鐘よりも正確だった。蒼太の薬は五時半までに三煎目を煎じ終えなければならない。火加減が強すぎれば苦くなり、弱すぎれば効き目が落ちる。
苦いのは忍びない。毎日薬を飲まなければならない蒼太のことを思うと、胸が締め付けられる。効き目が落ちるのはもっといけない。先天性心室中隔欠損を抱える子どもには、どんな些細な不注意も許されなかった。
私はそっと身を起こし、隣の部屋で眠る蒼太を起こさないように廊下を歩いた。
昨夜、うちに居候している継妹の白河雪萌が「男の子は六歳にもなってお母さんにくっついていたらよくないわ」と言うと、蒼太は枕を抱えて彼女のゲストルームへ行ってしまった。私は暗い廊下に立ち尽くし、しばらくの間、ただぼんやりとしていた。
蒼太が二歳のとき、夜中に高熱を出したことがある。私は一晩中、リビングで彼を抱いて歩き続けた。お話を聞かせてと言うから、夜明けまで『星の王子さま』を語り聞かせた。私の肩に頬を寄せ、小さな手で寝間着の襟をぎゅっと握りしめながら、蒼太は言った。「ままのにおい、お薬のにおいがする。いいにおい」。あの言葉は、私がこれまで生きてきた中で、いちばん嬉しかった褒め言葉だ。
なのに今、「ままのにおいがする」と言ってくれたあの子は、雪萌の香水の匂いの方が好きだと言うようになっていた。
台所の電気をつけると、暖かな黄色い光が広がった。砂鍋の蓋を開けると、当帰と川芎の苦い湯気がゆっくりと立ち上ってくる。左手の人差し指には、三日月の形をした傷跡がある。三年前、薬を煎じながらうとうとしてしまい、指が煮立った薬汁の中に滑り込んだときについた火傷の痕だ。
家政婦に任せることも考えなかったわけではない。でも蓮が言った。「子どもが毎日飲む薬を、他人の手に委ねるなんてできるわけがない」。その一言が、蒼太と蓮に関わるすべての家事を、いつの間にか私一人に引き受けさせていた。
七時ちょうどに薬汁を青磁の器に漉し入れ、少し冷ましてから、私は壁の戸棚を開けた。三ヶ月かけて仕上げた礼服の箱を取り出す。深い藍色のベルベットが、朝の光の中で凪いだ海のように静かに輝いていた。衿元には、小さな六芒星を刺繍してある。
ピアノの鍵盤のような黒と、星夜を思わせる藍色の組み合わせは、今日の幼稚園の音楽会にぴったりだと思っていた。星の刺繍には銀糸を織り交ぜてあるから、舞台の照明を受ければ、本物の星空のようにほのかに輝くはずだ。この礼服を通して蒼太に伝えたかった。お母さんはあなたのお世話をするだけじゃない、あなたが胸を張って着られる服だって作れるのよと。
「ままー」
振り返ると、心臓が一瞬止まりそうになった。東雲蒼太が台所の入り口に立っていた。六歳の男の子が寝間着姿で、髪をぼさぼさにしたまま、眠そうな目でこちらを見ている。
「起きたの?」私はしゃがんで手を伸ばした。「ほら、ままが髪の毛を——」
蒼太は半歩、後ろに引いた。一歩ではなく、半歩。その距離は、計ったかのように絶妙だった。私の手が届かないぎりぎりの場所に、でも明らかにわかるほどではない程度に。
「ゆきもりおばちゃんがね、スーツ作ってくれたんだ」と蒼太は顔を上げ、見たことのないほど目を輝かせながら言った。「こんな色でね、すっごくかっこいいんだよ!」
私は自分の声が遠くから聞こえてくるような気がした。「ままもね、蒼太のために礼服を作ったのよ。見て、藍色のベルベットで、お星様の刺繍もしてあるの——」
「でも、ゆきもりおばちゃんが言ってた。ブランドのお店で作ってもらったんじゃない服を着てったら、お友達に笑われるって……」
私は言葉を失った。蒼太の価値観がこれほど早く変わってしまうとは、思っていなかった。
階段から足音が聞こえてきた。白河雪萌が降りてくる。シルクのガウンをまとい、栗色の巻き毛を肩に流したその姿は、一歩ごとにランウェイを歩くようだった。
「星音お姉ちゃん、おはよう」雪萌は笑顔で近づいてきて、その視線は真っ直ぐに礼服の箱へと落ちた。「わあ、これが用意したやつ?かわいいじゃない、手作り感があっていいわね」
彼女は手を伸ばして箱を取ろうとした。私は反射的に庇おうとした——
「ちょっと見せてよ」彼女の肘が、「うっかり」私の腕に当たった。
熱いコーヒーが、カップからこぼれた。こぼれたのではない、跳ねたのだ。まるで軌道を計算したかのように、そのコーヒーは放物線を描いて礼服の箱のど真ん中に落ちた。
深い茶褐色の液体が、ベルベットの上でみるみる広がっていった。銀糸の中に隠れていた星が、コーヒーに飲み込まれた。
あなた——!
身構えていたはずなのに、またしてもしてやられた。
「きゃあ、ごめんなさい、ごめんなさい!」雪萌が声を上げ、瞬く間に瞳が潤んだ。「わざとじゃないの!星音お姉ちゃん、本当に、わざとじゃなかったのよ……」
私は冷めた目で彼女の演技を見つめた。彼女がここに住み込んでから半年、この手の芝居は数えきれないほど繰り返されてきた。
雪萌は東雲蓮の婚前の恋人であり、私の継妹でもある。半年前に帰国して治療のためという名目でこの家に入り込み、蓮の黙認のもと、じわじわと私の家庭に侵食してきた。蒼太と私の間の愛情と信頼を引き離し、自分がその場所に取って代わろうとしているのは、あまりにも明らかだった。
蓮と雪萌の間にある感情については、さほど気にしていなかった。この七年間の、感情を削り取られるような結婚生活が、蓮に対して私が抱いていたすべての愛情と幻想を洗い流してしまっていたから。どれほど世間が彼を優秀で、ハンサムで、裕福だと讃えようとも、私の目には彼の冷淡さと身勝手さしか映らなかった。
でも、蒼太だけは違う。
この結婚に耐え続けてきたのは、ただ一つ、蒼太に完全な家庭を与えてあげたかったからだ。
なのに今、蒼太は私への愛情と信頼を、そのまま丸ごと白河雪萌に差し出してしまっていた。
胸が、砕けそうだった。
もし今、離婚を切り出したとして——蒼太は、私についてきてくれるだろうか。
雪萌は駆け寄り、しゃがんで、濡れたベルベットの塊を手で掴もうとした。彼女の指は白く、きれいで、淡いピンクのネイルが施されていた。私の手とは違う。荒れた肌、火傷の痕、針の刺し傷、そして毎日薬汁に浸かって落ちなくなった黄褐色のシミ。
「何事だ」
冷たい声が階段の方から聞こえてきた。
東雲蓮がそこに立っていた。三十二歳の財閥の御曹司、濃いグレーのスーツに身を包み、眉目の間にはいつもの、すべてを値踏みするような高みの視線をたたえていた。
「蓮くん……」雪萌が小走りで駆け寄り、彼の袖口を掴んで、泣きそうな声で言った。「星音お姉ちゃんが蒼太くんのために用意してくれた礼服を汚しちゃって、怒らせてしまったかしら……」
蓮は箱を一瞥した。
「服一着のことだ」彼は淡々と言った。その声には謝罪も、感情の揺らぎも一切なかった。使用人がコップを一つ倒したことを告げるような口調だった。「雪萌が蒼太にスーツを用意してくれているだろう。そちらを着ればいい。蒼太、薬を飲んで、朝食を済ませたら雪萌と幼稚園に行け」
「でも、親子コンクールは保護者の同伴が必要で——」
「雪萌は国際的なモデルだ。彼女が一緒にいてやれば、蒼太も自信を持てる」蓮は私の言葉を遮り、有無を言わせぬ口調で続けた。
その一言が、半年間積み重ねてきたすべての我慢に火をつけた。
「東雲蓮、蒼太のお母さんは私よ!」
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デイリー更新
離婚後、奥さんのマスクが外れた
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令嬢は離婚を機に大富豪への道を歩む
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偽りの仮面
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そう願う私を、しかし、彼が手放すつもりは毛頭ないようだった……。
私が去った日
けれど最後に彼が選んだのは、私ではなく、彼の初恋の女性だった。
夫は、私の心を深く傷つけただけではない。あの女が私の大切なジュエリーデザインを盗むことを許し、さらには実の息子までも操って、私を「怪物」だと思わせた。
嘘で塗り固められた結婚生活の中で、私は少しずつ自分を失っていった。
息が詰まるような日々。愛されていると思い込んでいた時間。すべてが偽りだった。
けれど、彼らはひとつだけ間違えた。
私を、もう戻れないところまで追い詰めたこと。
私が去ると決めたあの日。
私は、最低な夫も、母親への感謝を忘れた息子も、そして彼らによって壊された過去の自分も、すべて置き去りにした。
親友の支え。そして、私の本当の価値を見抜き、才能を認めてくれたある若き実業家との出会い。
その温かな手によって、私はもう一度、自分自身を取り戻した。
失った誇りを取り戻し、眠っていた才能を開花させ、世界へ羽ばたくデザイナーとして新たな人生を歩み始めた。
今、私の作品は世界の舞台で輝いている。
一方で、かつて私を捨てた男は、跪いて許しを乞う。
「戻ってきてくれ」と。
けれど、もう遅い。
私が去ったあの日こそが、私が本当の自分を取り戻した日。
もう二度と、過去には戻らない。
妻が去り、妊娠を知った俺は、ただ泣き崩れるしかなかった
しかし、結婚して5年後、彼は離婚を切り出した。その時初めて、彼の想い人が私の父の隠し子(私の異母兄弟)だと知った。
離婚を決意した七海だったが、その時にまさかの妊娠が判明した。
家族の縁を切った日、兄たちはすべてを失った
公平を期すという名目のもと、兄たちは彼女からリソースを根こそぎ奪い、その尊厳を踏みにじってまで、運転手の娘を支えた。
彼女は兄たちのためにすべてを捧げたというのに、家を追い出され、無残に死んだ。
生まれ変わった今、彼女は人助けの精神などかなぐり捨てた。許さない、和解しない。あなたたちはあなたたちで固まっていればいい。私は一人、輝くだけ。
兄たちは皆、彼女がただ意地を張っているだけだと思っていた。三日もすれば泣きついて戻ってくるだろうと高を括っていたのだ。
だが三日経ち、また三日経っても彼女は戻らない。兄たちは次第に焦り始めた。
長兄:「なぜ最近、こんなに体調が悪いんだ?」――彼女がもう滋養強壮剤を届けてくれないからだ。
次兄:「会社のファイアウォールは、なぜこうも問題ばかり起こす?」――彼女がメンテナンスに来なくなったからだ。
三兄:「新薬の開発が遅々として進まないのはなぜだ?」――彼女が治験をしなくなったからだ。
四兄:「どうしてこんなにつまらない脚本しか上がってこない?」――彼女がもう執筆しないからだ。
五兄:「この義肢は、なぜこんなに出来が悪いんだ?」――彼女が製作をやめたからだ。
六兄:「なぜチームが負けた?」――彼女が脱退したからだ。
兄たちは地に膝をついて許しを請うた。「戻ってきてくれ。俺たちこそが、血を分けた本当の家族じゃないか」
彼女は絶縁状を兄たちの顔に叩きつけ、冷ややかに笑った。
「車が壁にぶつかってから、ようやくハンドルを切ることを覚えたのね。株が上がってから、ようやく買うことを覚え、罪を犯して判決が下ってから、ようやく悔い改めることを覚えた。残念だけど、私は――許さない!」
元恋人の叔父に拾われた夜、私は彼という名の「毒」に溺れる
私を見捨てた男ではなく、彼が一番恐れていた「危険な叔父」が、暗闇から現れた。
その腕の中だけが、この二年で初めて私を孤独から救い出した。
「次、誰かが君を傷つけたら、こうするんだ」 渡された銃の重みが、私の心に深く刻まれる。
私は逃げ出したかったはずなのに、いま、彼の甘い視線から離れられずにいる。 救いなどいらない。
ただ、この危険な男の「所有物」になりたい。
地獄から帰った私を、頂点の男が甘やかすなんて聞いてない
十八年間、空気のように扱われ、誘拐事件の際にも迷わず切り捨てられた私。
「強さ」という名の言い訳で死の淵に追いやられた私は、地獄の果てで生き延びた。
そして今、全国民が見守る超人気リアリティショーの舞台に、私は「かつての復讐者」として舞い戻る。
家族が偽りの善人面を振りまく中、彼らの仮面を一枚ずつ剥ぎ取っていく最高のショウタイム。
そんな私を面白がり、盤面をひっくり返す男がいた。冷徹なるF1チャンピオン。彼だけは、私の冷酷な正義を肯定し、その権力で私を囲い込む。
さあ、復讐劇の始まりよ。私を「可哀想な犠牲者」だと思っていた報い、その身に刻ませてあげる。













