第一百零六話

競売が終わっても、私たちはすぐにホテルへ戻らなかった。

凛人はどこへ行くとも言わず、ただ私の隣を歩いていた。ビクトリア・ハーバーの手すりに沿って、ゆっくりと。夜風が海の上から吹いてきて、潮の匂いを連れてきた。街灯が二人の影を長く伸ばして、水の中まで続いていた。

黒崎は三歩後ろについて、スマホを耳に当てて低い声で話していた。

私は胸に針のケースを抱えていた。軽かった。六千五百万円、手の中に収まって、一枚の紙みたいに軽かった。

ホテルの部屋に戻ると、凛人は上着を椅子の背にかけて、振り返って私を一瞥した。

「座って。」

私は座った。彼はバーカウンターから水を一杯注いで、私の手元に置いた。...

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