第一百一十四話

姉の手は、離れなかった。

帰りの車の中で、私はずっと窓の外を見ていた。港区の街灯が一つずつ後ろへ流れていく。誰かが古い帳簿を片付けているみたいに。凛人は隣に座って、何も言わなかった。黒崎は助手席でスマートフォンの画面を凝視していて、その光が彼の顔を白く照らしていた。

頭の中でぐるぐると回っていたのは、あの瞬間のことだった。

姉が私のコートの裾を掴んだ。その動きはとても軽くて、何かを傷つけることを恐れているみたいだった。彼女は私の耳元で囁いた——お母さんのもの、彼には見つかっていない、と。

それだけだった。

私が聞き返す間もなく、姉はもう手を離して、枕に頭を戻し、目を閉じていた。何も...

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