第一百一十七話

黒崎からの電話は、夕方の五時六分にかかってきた。

その時刻を覚えているのは、私がちょうど窓際に立って、港区の空がオレンジ色から灰青色へとゆっくり沈んでいくのを眺めていたからだ。頭の中ではまだ、姉が言っていたことが渦を巻いていた——診療所に隠してあるもの、母が残したもの、まだ「あの人」に見つかっていないもの。

そこへ、スマートフォンが振動した。

黒崎の声はいつも通り落ち着いていて、まるで行程表を読み上げるようだった。

「桂木は朝倉さんの工房を出た後、今、Ravenの薬局の方へ向かっています」

私はすぐには返事ができなかった。

窓の外で最後のオレンジ色が、ビルの隙間に消えていった。

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