第一百一十九話

美鈴さんは、準備ができていると言った。

深夜の会議が終わり、みんなが次々と帰っていったあと、工房のローテーブルを挟んで向かい合っていたのは私たちふたりだけだった。彼女はティーカップをそっと脇へ押しやり、両手を膝の上に重ねた。三十年間しまい込んでいた古い出来事を、ひとつひとつしわを伸ばして取り出せるよう、丁寧に畳み直しているみたいだった。

「澪との手紙、それから銀座で彼女がさらさらと描いたスケッチブック」と彼女は言った。「ずっと持っていたの」

どうして今まで出さなかったんですか、と私は聞いた。

少し間があってから、彼女は言った。「私が口を開かないでいれば、彼女はあの頃の光の中に生きてい...

ログインして続きを読む