第一百六十二話

前の夜、日向は泣かなかった。

膝を抱えてカーペットの上に座り、ぽつぽつと話してくれた。お母さんに捨てられた野良の子、という言葉と、星音おばさんの名前は全部嘘でできてる、という言葉を。声は小さくて、でも一語一語はっきりしていた。まるで、ずっと一人で繰り返し聞かされてきた言葉を、ようやく外に出したみたいに。

私は彼を抱いて、何も言わなかった。

怒りはあった。ただ、その夜は怒りより先に、この子の肩の重さを感じていた。

翌朝、約束の時間に学校へ向かった。

凛人は助手席で携帯を一度確認し、しまった。佐伯は後部座席で資料を最終確認していた。私はコートのボタンを一番上まで留めて、窓の外を見ていた...

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