第一百七十一話

凛人が深夜に出かけた。どこへ行くかは言わなかった。

玄関の扉がそっと閉まる音がして、廊下の足音がだんだん遠ざかっていった。

私は追いかけなかった。

今週、これで三度目だった。

作業台の前に座ったまま、鉛筆はスケッチブックの白紙の上に置かれたまま、ずっと動かせなかった。窓の外、元麻布の夜は声のない絵みたいに静かで、街灯が木の影を細く長く伸ばしている。そうしてぼんやり座っていたら、いつの間にか口の端がほんの少し上がっていた。

最後まで、とっておいてくれればいい。

凛人の行き先は渋谷区の古いビルの三階にある工房だった。路地の奥に隠れるように建っていて、慣れない人間にはなかなか辿り着けない...

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