第四十四話

水曜日の午後、私のアトリエ。

新しい原稿のカラースキームを修正していると、インターフォンが鳴った。葵が扉を開けに行き、驚いたような声が聞こえてきた。「あの、どちら様でしょうか——」

「秋山詩織を訪ねてきた」

男の声だった。重いフランス訛りで、日本語はたどたどしいながらも、一言一言ははっきりしていた。私は立ち上がり、玄関へと向かった。

扉の外に立っていたのは、痩せた長身の男性だった。五十代前後、灰白の髪は丁寧に撫でつけられ、仕立ての良い濃いグレーのコートを身に纏っている。手には革製のブリーフケースを提げていて、それは古びて表面が光るほどで、角には使い込まれた傷が刻まれていた。

「私...

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