第五十三話

片桐宗一郎が逮捕されたという知らせは、公判の翌日、夕暮れどきに届いた。

わたしはアトリエで原稿を描いていた。ペン先が紙の上を走るかすかな音が、静かな部屋に満ちていた。凛人がドアを開けて入ってきた——ノックはしない、でも彼はいつも入り口で一瞬だけ立ち止まる。誰かが来たとわたしに知らせるための、彼なりの作法だった。

「片桐が連行された」と彼は言った。「警視庁経済課だ」

ペン先が止まった。インクが紙の上に滲み、黒い染みをつくった。

わたしはすぐに顔を上げなかった。窓の外では夕闇が降りてきていて、遠くに東京タワーのシルエットが暗い赤の光を灯していた。片桐宗一郎——その名前は、遅れて投げ込...

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