第五十六話

出発前、凜人が玄関で私を呼び止めた。

「振り返れ」と彼は言った。

私は振り返った。

彼はポケットからボタンほどの小さな機器を取り出し、俯いたまま私の襟の内側に留めた。彼の指が鎖骨の上でほんの半秒だけ止まり、薄いシャツ越しに伝わるその温もりが、胸の奥まで焼き付くように熱かった。

「録音機だ」と彼は言った。「有効範囲は五百メートル。」

「心配しているのね」と私は言った。

「ああ」彼は否定せず、顔も上げなかった。「心配している。」

彼は私の襟元のしわを丁寧に伸ばした。手はすぐには引かれず、宙に浮いたまま一秒止まり、それからそっと私の肩に落ちた。

「朝霧星音」と彼は言った。声は低...

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