第七十八話

オークションの前日、美鈴さんの車は古い建物の前に停まった。

銀座でも港区でもない。神宮外苑に近い、静かな路地だった。建物は昭和の時代のもので、外壁には蔦が這い、入口に看板はなく、銅製の表札がひとつあるだけだった。「R」と刻まれた、それだけの表札。

「Raven。」美鈴さんが言った。「国際的な宝飾界の伝説よ。トップブランドの創始者。三十年前に第一線を退いて、今は閉じた扉の中でしか弟子を取らない。」

「お知り合いなんですか?」

「向こうが私を知っているの。」美鈴さんは笑った。「あなたのお母さんのことも。」


ドアは自動だった。中に入ると、細い廊下が続いていた。壁には白黒の写真...

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