第4章

アイリス視点

あの不穏な夜が明けて、翌日、父と母は私をスーパーボウルに連れて行ってくれた。

「歴史が生まれる瞬間」を目撃するための「特別な日」なんだって。VIPボックスにシャンパン、グルメ料理――なにもかもが豪華絢爛だった。でも、父が電話で何かを繰り返し確認しているのが聞こえた。「元金は五百万……ああ、さらに千五百万借りる……あの子は一度も間違えたことがないんだ……」

二千万。その数字に、私は全身が震えた。

試合が始まった。ニューイングランド・ペイトリオッツ対ロサンゼルス・ラムズ。

「これを当てれば、俺たちは大儲けだ。もし間違えたら……」

父は最後まで言わなかったけれど、その目には、氷のように冷たい殺意が宿っていた。

私は恐怖に目を閉じ、必死に頭の中の映像を探った。でも、今回はいつもと違った――緊張しすぎて、怖すぎて。予知のビジョンは現れ始めたけれど、ぼやけている。トム・ブレイディが投げる姿も、得点シーンも見えた。でも……どっちが得点したの?どっちのチームがリードしているの?

映像はめちゃくちゃに混ざったパズルのようで、断片的だった。

「早くしろ!」父が急かした。

必死ではっきり見ようともがくうちに、まつげから汗が滴り落ちる。ビジョンには24と17という数字が点滅したが、どちらがどのチームのものなのか分からない。ブレイディの姿だけははっきり見えた――彼が、歓喜しているのを……。

「ペイトリオッツが勝つ」私は目を開け、震える声で言った。「24対17で」

父の顔が恍惚とした喜びに輝いた。「本当だな?」

「うん、お父さん。ブレイディが……大事なパスを決めるの」私の声はどんどん小さくなった。

「聞いたか?」お父さんは電話に向かって叫んだ。「ペイトリオッツ、24対17だ!二千万、全部それに賭けろ!」

試合が始まった。第一クォーター、ラムズが予想外にも7点を先取した。第二クォーターでさらに10点を追加。17対0。

冷や汗が噴き出してきた。私が見た、あの曖昧なビジョンとは違う……

第三クォーター、ペイトリオッツがようやく得点を開始。10対17。

「見て!追いついてきてる!私が言った通りだよ!」私は必死にスクリーンを指さした。

第四クォーター前半、ペイトリオッツがさらに7点を追加。17対17。

まだ希望はある!あと一回のタッチダウンでいいの!

だが、最後の十分間で、すべてが崩壊した。

ブレイディのパスがインターセプトされた。一度ならず、二度も連続で。ラムズはその好機を活かしてさらに7点を追加した。

最終スコアが確定する。ラムズ24、ペイトリオッツ17。

間違えた。完全に、真逆だった。

VIPボックスは死んだように静まり返った。

「ありえない……」父の声が震えていた。「あの子は一度も間違えたことがなかった……この二年間、一度も……」

「千五百万……」母の顔は蒼白になった。「私たちは、千五百万もの借金を……」

二人の視線が、一斉に私に向けられた。その眼差しは、怒りと絶望と、そして殺意に満ちていた。

ホテルの部屋に戻ると、本当の地獄が始まった。

「全部、お前のせいだ!」父の最初の一撃が、私の頬にめり込むように叩きつけられた。「この役立たずのゴミが!」

「ああっ――!お父さん、ごめんなさい!」

「ごめんなさい、だって?」母が駆け寄ってきて、その爪が私の腕に深く食い込んだ。「千五百万よ!それがどういうことか分かってるの!?」

「お母さん、お願い……本当にブレイディが逆転するのを見たの……」

「逆転?」父はベルトで私を力任せに鞭打った。「てめえのせいで俺たちの幸運がひっくり返っちまったんだろうが!」

ベルトが何度も、何度も振り下ろされる。その一撃一撃に、二人の怒りと絶望が込められていた。

「私たちはもう終わりよ!」母が取り乱して叫んだ。「あの人たちに殺されるわ!」

「全部お前のせいだ!」父が私の腹を強く蹴りつけた。「この疫病神が!」

「やめて……もう、耐えられない……」私は苦痛に床の上で体を丸めた。

「耐えられないだって?」母はベッドサイドのランプを掴むと、私に向かって投げつけた。「私たちがこのクソみたいな借金をどうやって耐えろって言うのよ!」

ランプが頭に当たり、すぐに血が噴き出した。

「お前が私たちを破滅させたんだ!」父はベルトで鞭打ち続けた。「この家族をめちゃくちゃにしやがって!」

視界がぼやけ始め、耳には二人の怒声と、ベルトが空を切るヒュッという音だけが響いていた。

「役立たず!役立たず!役立たず!」

痛みの中で、意識が次第に遠のいていった……。

暗闇が、すべてを飲み込んだ。

夜更けに、私は耐え難い痛みで目を覚ました。部屋は暗かったけれど、リビングで父と母が小声で言い争っているのが聞こえた。

「千五百万だぞ、リンダ!到底返せる額じゃない!」父の声は絶望に満ちていた。

「じゃあ、どうするのよ?」母がすすり泣いた。「ヴィクトルは、事を荒立てるような相手じゃないわ……」

「もしかして……いや、もしかしたら……」父は長く言葉を切った。「あの子をヴィクトルに引き渡す、ってのはどうだ」

「どういうこと?」

「あの子にはまだ価値がある。ヴィクトルはずっとあの子の能力に興味を持っていた……あの子を完全に引き渡せば、借金の一部を帳消しにできるかもしれない」

心臓が止まりそうになった。

私を、売るつもりなの?

「でも、あの子はまだ私たちの娘よ……」母はためらった。

「娘?」父は冷たく笑った。「もう娘なんかじゃない。あいつは俺たちの借金で、お荷物で、疫病神だ!」

「ヴィクトルはあの子をどうするかしら?」

「そんなことは俺たちが考える問題じゃない」父は冷酷に言い放った。「自分たちの命をどう救うかだけを考えればいいんだ」

私は声を立てないように必死でこらえたけれど、涙が止めどなく溢れてきた。

本当に、私を見捨てるんだ……

翌朝、二人の態度は一変した。

「アイリス、起きて」母は昨夜の暴力がなかったかのように、優しく私を揺り起こした。「お母さん、あなたの大好きなチョコレートアイスクリームを買ってきたわよ」

私は警戒しながら母を見つめた。体中の傷がまだ痛む。

「特別な場所に連れて行ってあげたいんだ」父はベッドに腰掛け、不自然なほど優しい声で言った。「昨夜の……誤解を解くためにね」

誤解?私を死ぬ寸前まで殴りつけたことを、誤解ですませるの?

「行きたくない」私はベッドの隅に縮こまった。「おうちに帰りたい」

「何だって?」母の表情が瞬時に険しくなった。「どこに帰る家があるっていうの?」

「私たちのアパート……私のピンクの部屋……」私は小声で言った。

「お前にまだ家があると思ってるのか?」父の優しい仮面が一瞬で剥がれ落ちた。「お前にまだそんなものを享受する資格があると思ってるのか?」

「わ、私、また予知を頑張るから……今度は間違えないって約束するから……」

「もう遅いのよ!」母が叫んだ。「ヴィクトルが今日、私たちに会いたがってるの!あなたも一緒に来なきゃダメなのよ!」

「嫌だ!ヴィクトルなんかに会いたくない!」私は泣きながら拒絶した。「おうちに帰りたい!おもちゃが欲しい!」

父と母は顔を見合わせた。その目には、危険な光が閃いていた。

「協力する気がないなら……」父が私に近づいてくる。

「いや――!」

でも、もう遅かった。こめかみに叩きつけられた父の拳の衝撃で、私の世界は一瞬にして暗闇に沈んだ。

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