チャプター 79

「実に結構だ」K氏はわずかに手を上げた。

助手がすぐさま進み出て、恭しくディアナに漆黒の金属製名刺を差し出した。そこにあるのは簡素な「K」の一文字と電話番号だけだった。

「いつでも連絡しなさい」

そう言い残すと、K氏は護衛に囲まれたまま踵を返し、出口へ向かった。

群衆は無意識に左右へ割れ、得体の知れない大物の背を見送った。

そして視線は再びその場へ戻る――だが今度、焦点となったのはディアナではない。イドリスとレイラに向けられた眼差しは、隠しようのない嘲笑と軽蔑に濁っていた。

「やっぱり仕組まれてたのか。あんな都合のいい『技術的な不具合』があるわけないと思った」

「ヨーク家の評判は...

ログインして続きを読む