チャプター 89

レイラは冷たい壁にもたれたまま、長いあいだ動けずにいた。心はすっかり打ちのめされている。電話をかけなければならない――それしか道はなかった。

スマホの画面には、イドリスの名前が責め立てるように浮かんでいる。何度も深呼吸し、震える指先を押さえ込み、ようやく通話ボタンを押した。

呼び出し音は永遠にも思えるほど続き、やっと相手が出た。声には露骨な苛立ちが滲んでいた。

「何だ。手短にしろ」

レイラはスマホを強く握りしめ、声だけはどうにか平静を装った。いつものように、かすかな弱さと傷ついた響きをわざと混ぜて言う。「イドリス……私、研究所にいるの……」

言い終える前に、イドリスが荒々しく遮った。...

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