第109章

テラスを吹き抜ける夜風はどこか肌寒く、雪枝の耳元でほつれ髪を揺らした。

彼女は丁寧な口調で切り出した。

「実は、橘さんの手腕には以前から感服しておりました。絵里のラボが今日あるのも、橘さんの多大なるご尽力があってこそですね」

その声には誠実な響きが帯びている。

「ぜひ橘さんの下で学ばせていただきたいのです。どうか、私にその機会をいただけないでしょうか」

晃は表情をピクリとも変えず、ひどくよそよそしい声色で返した。

「小川さん、俺はテクノロジー分野には疎いのでね。教えられることなど何もありませんよ。他を当たってください」

雪枝はふっと笑みをこぼした。その口元には、すべてお見通しだ...

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