第120章

絵里は足を止め、振り返って彼を見た。

廊下の明かりを背に受けているため、顔は影になり表情は読めない。だが、その眼差しの異常なほどの冷たさだけは、はっきりと伝わってきた。

拓海はその瞳と視線がぶつかった瞬間、口を開きかけたものの、用意していた言葉が喉の奥につかえ、一言も発することができなかった。

その場に立ち尽くし、気まずそうに数秒間沈黙した後、ようやく絞り出したのはこんな言葉だった。

「最近寒いから、もっと着込んだほうがいい」

絵里は彼を見つめた。まるで、理解不能な物体でも観察するかのように。

意味が分からない。

やがて彼女は小さく頷き、「ありがとう」とだけ残して、再び背を向け...

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