第204章

持橋明夏は湯呑みを手に取って一口すすり、ふっと笑みをこぼした。

「もう随分と昔の話よ。絵里は十代で飛び級して大学に入ったから、どの学部の教授たちもこぞって彼女を教え子にしたがったの。中でも史紀とうちの行男の争いが一番激しくてね。あの頑固爺さんたち、どっちも一歩も譲らなくて。絵里もすっかり辟易して、いっそ両方の学問を修めることにしたってわけ」

彼女は湯呑みを置き、首を横に振った。

「ただ、あの二人とも早くに逝ってしまって。徹ほどの福分はなかったわね」

良一は一瞬きょとんとした。

「徹? 西村徹のことかい?」

持橋明夏は頷き、笑みを深める。

「そうよ。徹はかなり長い間、絵里を指導し...

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