第35話

黒塗りのベントレーが城の門をくぐると、中庭には見慣れないロールス・ロイスが停まっていた。

悠太はわずかに眉をひそめた。見覚えのあるナンバープレート――両親がスイスで愛用している車だ。

まさか、来ているのか?

なぜ事前に何の連絡も……。

車が停まるや否や、雪枝が先に降り立った。悠太と同乗していた余韻からか、その顔にはまだ上機嫌な笑みが張り付いている。

絵里は無言で助手席から降りた。手のひらの傷がズキズキと痛んだが、表情には一切出さなかった。

三人が城館に足を踏み入れた途端、リビングから子どもの甲高い笑い声と、初老の男女の穏やかな話し声が聞こえてきた。

「直人はすごいな。おじいちゃ...

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