第80章

彼女の去り際は、あまりにもあっさりとしていた。

振り返ることも、ためらうこともなく、背後にいる男を一瞥すらしなかった。

悠太は閉じられた扉を見つめ、眉を深く寄せた。その深い瞳の奥で何かが渦巻き、そして無理やり押さえ込まれた。

不意に、再び扉が開いた。

悠太が視線を上げると、拓海がひょっこりと顔を覗かせていた。

「帰ったのか?」

拓海は部屋に入ってくるなり、悠太の向かいにどっかりと腰を下ろし、足を組んだ。

「いやはや、悠太。お前の離婚も前途多難だな」

悠太は相手にしない。

拓海は勝手に茶を注いで一口飲み、ちっと舌打ちをした。

「さっき外でバッチリ聞こえたぜ。お宅の雪見博士、...

ログインして続きを読む