第85章

午前三時。研究室には、まだ煌々と明かりが点いていた。

絵里はモニターをじっと見つめ、キーボードの上で目にも留まらぬ速さで指を滑らせていた。論文の執筆である。

この論文には丸半年を費やし、推敲を重ねた回数は数十回に及ぶ。

窓の外が白み始めた頃、彼女はようやく最後の句点を打ち終えた。

そのまま背もたれに深く寄りかかり、凝り固まった首の筋を揉みほぐしながら、細く長い息を吐き出す。

それからの数日間も、絵里は研究室にこもりきりだった。

そんなある日の午前中、唐突にスマホが震えた。

晃からだ。

「今日、晧一が提携の話でそっちに行く」

電話越しの声には、わずかに申し訳なさが滲んでいた。...

ログインして続きを読む