第89章

絵里はハッとして動きを止めた。

「どうしてそんなことを言うの?」

直人はうつむき、消え入りそうな小さな声で言った。

「だって、お母さん全然お家に帰ってこないし、電話にも出てくれないから……僕のこと、もういらなくなっちゃったんだと思って……」

すっかり痩せてしまった息子の小さな顔を見て、絵里はやはり胸が締め付けられるのを感じた。

二十日間。

たった二十日会わなかっただけで、この子はこれほどやつれてしまったのだ。

彼女は手を伸ばし、直人の髪をそっと撫でた。

「お母さんが直人を捨てるわけないでしょう」

直人は顔を上げた。その目にはまだ涙がたまっている。

「本当?」

「本当よ」

...

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