第九十章

絵里は彼女の胸元にある名札に目を落とした。住所と連絡先が書かれているのを見て、おそらく認知症を患っている高齢者だろうと察しがついた。

スマホを取り出し、その番号に電話をかけてみる。コール音は長く続いたが、誰も出る気配はなかった。

時刻を確認し、再び老婆に視線を戻すと、絵里は決断を下した。

「おばあさん、お家まで送りますよ」

老婆は途端に嬉しそうに頷き、彼女の後に続いて車に乗り込んだ。

幸い、老婆の家はここからそう遠くなかった。車を走らせること二十分余り、ある住宅街へと曲がっていく。

絵里が車を停めるやいなや、少し離れたところから人影が駆けてきた。

「おばあちゃん!」

拓海は息...

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