第72章 応答なし

 濃い煙が鼻へねじ込み、刺すようなガスが肺を焼いた。

 オリヴィアは、ミアと口論している場合じゃないと悟る。両手で口と鼻を塞ぎ、必死に息を殺した。

 白い肌はあっという間に熱を帯び、喉は火の玉みたいにひりつく。吸うたび、胸の奥まで針で抉られるように痛い。

 火はすでに出入口まで迫っていた。書類箱がパチパチと爆ぜ、火の粉がスカートの裾へ降りかかる。じゅっと焼ける感触に、オリヴィアは反射的に跳ねた。

「くそっ……!」

 悪態を吐き、乱暴に火の粉を叩き落とす。涙で滲む視界のなか、必死に周囲を探った。

 窓はない。あるのは天井近くの小さな換気窓だけ。しかも太い釘でがっちり打ちつけられてい...

ログインして続きを読む