第56章

「浮気相手ですって?」

別の声が反論する。

「愛されていない方こそ、浮気相手でしょう」

「彼女こそ浅野社長の初恋の人らしいわよ。今の奥様である美月さんなんて、当時は隙を突いてのし上がっただけだとか」

「冗談じゃないわ。いくらなんでも、浅野社長には籍を入れた正妻がいるのよ。こうやって堂々と他人の夫を奪おうとするなんて、それこそ浮気相手そのものじゃない」

二つの意見が交錯し、ハエの群れのようにブンブンと耳障りな羽音を立てている。

香織の顔から、とうとう笑顔が剥がれ落ちた。

晴人の腕に絡ませた指先は、白くなるほど強く握り込まれている。

晴人の顔色も優れない。だが彼女を庇おうとはせず...

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