第2章

これがただの悪夢なんかじゃないって、確かめないと。

翌朝、大型トラックに撥ねられた後のような、全身を押し潰す倦怠感で目が覚めた。でも、ベビーチェアでは瑠奈が笑い声をあげ、海翔はコーヒーを淹れている。何もかもが、普通だった。

普通すぎた。

「おはよう、聖良」キッチンによろよろと入っていくと、海翔が私の頬にキスをした。「一晩中、うなされてたぞ。悪い夢でも見たのか?」

「そんなところ」私は自分にコーヒーを注ぎ、彼がトーストにバターを塗るのを眺めた。別の時間軸では彼が死んでいたなんて、知る由もない。

彼が仕事に出かけた後、私はやるべきことを決めた。探偵ごっこの時間だ。

お母さんはうちに来ると、いつもスマホをそこらに置きっぱなしにする。人の人生を破壊する計画を立てている人間にしては、あまりに無用心だ。私はお母さんがトイレに行った隙に、それをひграんだ。

メッセージは、私の記憶通りだった。友人である恵子へのメッセージ:『パーティーでみんながどんな顔するか楽しみ!このサプライズは最高に盛り上がるわよ』

誠という人物への別のメッセージ:『前の職場の診療所のレターヘッド、まだ持ってる?ちょっとお願いがあるんだけど……』

手が震え始めた。全部、現実だったんだ。

スマホを元に戻し、お母さんが出てきても平然を装った。「瑠奈、今日はすごくいい子ね」

「おばあちゃんの前ではいつもそうよ」お母さんは微笑んだが、心はどこか別の場所にあるのが分かった。きっと、私を破滅させる計画を練っているのだろう。

お母さんが帰った後、私は彼女の持ち物を漁った。ええ、ひどいことだって分かってる。でも、背に腹は代えられない。

バッグの中に、小さな手帳を見つけた。ほとんどは買い物リストや予約のメモだったけれど、十二ページ目にそれはあった。『DNA鑑定書――誠に診療所のレターヘッドの件を頼む』

本物の鑑定を受けるんじゃない。偽造するつもりなんだ。

でも、どうして?どうしてこんな面倒なことをしてまで、私の人生をめちゃくちゃにしようとするの?

その時、最近、黒木哲郎、お父さんの奇妙な言動を思い出した。「家督」だの「然るべき人間に財産が渡るように」だのといった話をしていた。

お母さんが読書会に行っている間に、私は実家へと車を走らせた。私とお父さんの仲は、これまでまあまあだった。彼は遺言書の写しを自宅の書斎に保管している――セキュリティは形だけのものだった。

見つけるのに二十分かかったが、それはそこにあった。先月更新されたばかりの最新版だ。

篤志の次に、瑠奈が筆頭相続人として記載されている。どうやら、唯一の孫であることにはそれなりの利点があるらしい。

もし瑠奈が海翔の娘ではなく、私が「不貞」を働いたとなれば、お父さんは遺言を書き換えるかもしれない。

突然、すべてが繋がった。これは単に私を傷つけるためだけじゃない。お金のためだ。

家を出ようとした時、本棚のフォトアルバムが目に入った。古い人って何でも取っておくでしょう?お父さんは写真に関しては特にそうだった。

九十年代初頭のアルバムをめくっていると、それを見つけた。

色褪せた大学時代の写真。お母さんと、見たこともない男の人が写っている。二人は、なんというか、かなり親密そうな雰囲気だった。彼女は彼のジャケットを羽織り、彼の手は彼女の腰に回されている。

裏返すと、誰かの手でこう書かれていた。『仁&R、1992』

一九九二年。篤志が生まれた年だ。

なんてこと……。

スマホで写真を撮り、すべてを元に戻した。家に帰る車の中で、頭が猛スピードで回転していた。

つまり、お母さんは篤志のお父さんのことで、ずっと嘘をついていたんだ。お父さんは、彼の実の父親じゃない。

ということは、彼女は三十年以上もこのゲームを続けてきたことになる。

その夜、お父さんがいつものようにシャワーを浴びている隙に、私は彼のバスルームに忍び込み、カミソリに残っていた毛を数本手に入れた。気持ち悪いけど、必要だった。

翌朝早く、私はお母さんの家に向かった。篤志が仕事の準備をしながら、担当している事件のことで何かぶつぶつ文句を言っていた。

「よう、姉さん」彼はコーヒーからほとんど顔を上げなかった。

「あっ、篤志。洗面所、空いてる?」

「ああ、いいぞ」

私は洗面所に滑り込み、彼の歯ブラシを二秒ほど手に取った。必要なものを手に入れるには十分な時間だ。それから、それぞれを別々のティッシュに包み、ハンドバッグに押し込んだ。

その日の午後、街の反対側にある検査機関を見つけた。お母さんが偽造に使うであろう場所とは違うところだ。私は本物の結果が欲しかった。

「至急扱いでお願いします」私は技師に言った。「一番早くて、結果はいつ出ますか?」

「特急サービスをご利用いただければ、二、三日です。追加料金がかかりますが」

「構いません」家族を救うためなら、お金は問題じゃなかった。

今日提出すれば、結果はパーティーの直前に返ってくる。完璧なタイミングだ。

その夜、海翔とネットフリックスを見ている時、私は布石を打っておくことにした。

「海翔、急に変なこと言うようだけど、約束してくれない?」

彼はソファの向こうからこちらを見た。「どうしたんだ?」

私は深呼吸した。「もし誰かが、瑠奈はあなたの子じゃないなんて言ってきたら、この瞬間のことを思い出してくれる?」

彼は体を起こした。「ずいぶん具体的だな、聖良。どうしてそんなことを?」

私は彼の隣に体を丸めた。「ただ……噂や嘘で、家族がバラバラになるのを見たりするから。あなたが私を完全に信じてくれてるって、確かめておきたいの」

彼は私を腕に抱いた。「聖良、君は俺の人生で最も愛する人だ。誰が何を言おうと、それは変わらない」

彼に気づかれないように、心の準備をさせている。嵐が来た時、彼はこの会話を思い出すだろう。

「たとえ誰かが、それらしい公的な書類を見せてきても?」

「その時こそだ」彼は私の頭のてっぺんにキスをした。「そもそも、誰が俺たちの家族を壊したいなんて思うんだ?」

「分からない。でも、人って時々、とんでもないことをするから」

私たちは心地よい沈黙の中、コメディ番組を眺めていた。でも私の頭は、フル回転を続けていた。

DNAサンプルは提出された。本物の鑑定が、動き出した。

五日後、お母さんは嘘で私の家族を破壊しようとするだろう。

でも今度は、私の方に真実がある。それを、そっくりそのまま彼女に叩きつけてやる準備が。

そして正直なところ?彼女がどんな顔をするのか、楽しみで仕方がなかった。

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