第5章

母は急速に錯乱していった。

「こんなはずじゃなかった! 誰かが報告書をすり替えたのよ!」母は火がついたように、その紙を必死に振り回していた。

今や全員の視線が母に注がれていた。部屋は美智子さんの腕の中で喃語を話す瑠奈の声を除いて、完全に静まり返っていた。

「聖良が何かしたに違いないわ!」母は私を指差した。「あの子は私が何か持ってくるって知ってたんだから!」

私は精一杯、困惑した顔を作って見せた。「お母様、私はたった今、あなたが何かを持ってきたと知ったばかりです。存在も知らないものを、どうやってすり替えられるというのですか?」

我ながら、いい指摘だろう?

「それに、...

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