彼が売り渡した妻

彼が売り渡した妻

大宮西幸 · 完結 · 28.4k 文字

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紹介

かつて三井優子の人生は完璧だった――優しく思いやりのある夫三井純一、愛らしい娘絵麻、そして誰もが羨む中流家庭の暮らし。

あの真夜中までは。
薬で意識を朦朧とさせられた中、見知らぬ男の残酷な暴力を感じたのだ。そして目を覚ますと、夫はソファで安らかに眠っていた。

最初は悪夢だと思った。だが、裂けるような痛みと、下着に残った体液が、すべてが現実であることを突きつけた――自分は完全に無防備な状態で、誰かに犯されたのだ。

真相を探り始めた優子は、想像を絶する事実に辿り着く。夫は彼女の牛乳に睡眠薬を混ぜ、意識を失った彼女の身体を、仮面をつけた変態に「貸し出して」いた。そしてその凌辱は、世界中の変態たちが観るためにライブ配信されていた。

二年間、彼女は妻ではなかった――夫に売られた性奴隷だった。

チャプター 1

優子視点

 午前2時、微睡みの中で馴染みのある温もりが近づいてくるのを感じた。

「純一?」

 瞼が重くて開けられないまま、私はそっと囁いた。

 闇の中で誰かが優しく私の頬を撫でる。その感触は慈愛に満ちていながら、どこか焼けるように熱い。心臓が早鐘を打ち始め、久しく忘れていたときめきが血管を駆け巡った。

 やっと……私は心の中で呟いた。やっと、私に触れてくれる気になったの?

 結婚して二年。絵麻を授かったあの一度きりを除けば、純一は常に私と礼儀正しい距離を保ち続けてきた。私が歩み寄ろうとするたび、彼はいつも何かしらの理由をつけて私を遠ざけたのだ。

 だが、今夜は違う。今夜の彼は、まるで別人のようだった。

 予告もなく唇が塞がれる。そこには馴染みのない野性と欲望が宿っていた。いつものような淡白で形式的なものではなく、深く、支配的で、独占欲に満ちた口づけ。

「待って……」

 私は目を開けようとした。彼の顔をはっきりと見たくて。

「シッ……喋らないで」

 低い声が耳元で囁く。

 この感覚……まただ。以前にもあった曖昧な記憶のように、懐かしいけれど、どこか決定的に何かが違う。

 部屋を照らすのは頼りない月明かりだけで、ぼんやりとした輪郭しか見て取れない。純一なの? そうに決まってる――他に誰がいるっていうの?

 しかし、その動きはいつもの優しく礼儀正しい夫とは似ても似つかなかった。その手は荒々しく力強い。触れられるたびに強烈な侵略性を帯びていて、まるで私を骨の髄まで所有しようとしているかのようだった。

「今夜は……すごく、違うのね……」

 私は息を切らした。

 彼は答えず、ただ激しく唇を重ねてくるだけだった。指が私の髪に強く絡まり、その強引さに私は小さく悲鳴を漏らした。

 粗暴さと優しさが入り混じったその扱いに、私は恐怖と興奮が入り混じるのを感じた。純一はいつから……こんなにも私の求めているものを理解するようになったの?

 拒もうとも、問い質そうとも思った。けれど、身体の本能が理性を裏切っていく。全細胞がこの久しく絶えていた親密さを渇望し、心から求められるという感覚に飢えていたのだ。

「君が恋しくてたまらなかったからかもしれない」

 彼は耳元で吐息を漏らした。

 この声……純一のようで、何かが違う。もっと低く、官能的で、まるで全くの別人のよう。

 だが、もう思考は追いつかなかった。彼のすべての仕草が、私の心の隙を正確に突いてくる。まるで私の身体を知り尽くしているかのように。私は次第にその愛撫に溺れ、理性は快楽に飲み込まれていった。

 時間の感覚が曖昧になる。覚えているのは、彼の腕の中で震え続け、自分でも聞いたことのないような声を上げていたことだけ。刺激があまりに強すぎて――この極上の快楽で死んでしまうのではないかと思ったほどだった。

 やがて、かつてない絶頂を迎えた私は、そのまま深い闇へと堕ちていった。

 再び目を覚ました時、時刻は午前4時を回っていた。

 隣のベッドは空で、枕だけが微かな温もりを残している。

 全身が気だるく、身体の奥が鈍く疼いている。夢ではなかった証拠だ。けれど……。

「純一?」

 そっと呼びかける。返事はない。

 言い知れぬ不安に駆られ、じっとしていられなくなった。私はガウンを羽織ると、忍び足で寝室を出た。

 廊下は静まり返り、浴室にも明かりはない。私はそのまま居間へと向かった。

 居間から、微かな寝息が聞こえてくる。

 近づいた瞬間、私の世界は音を立てて崩れ落ちた。

 純一がソファで毛布にくるまり、熟睡していたのだ。目の前のローテーブルにはノートパソコンが開かれたまま。その深い眠りようは、そこで何時間も過ごしていたことを物語っていた。

 全身の血が凍りついた。

 純一がここで寝ていたのなら、さっきまで私と一緒にいたのは誰……?

 私は寝室へ駆け戻り、震える手で明かりをつけた。シーツは乱れ、枕にはくっきりとした窪みが残っている。床には私のパジャマが散乱し、下着は履き替えさせられていた。

 誰かが……私が全く気づかないうちに……。

 その事実に、胃が裏返りそうなほどの吐き気を催した。

 だが、何よりも恐ろしかったのは、なぜこの状況に覚えがあるのかということだ。以前にも、こんなことがあった?

 曖昧だった記憶の断片が繋がり始める。朝起きると身体に違和感があること、いつの間にか変わっている下着、純一がいつも「君の勘違いだ」と言っていたこと……。

 津波のように押し寄せる恐怖に耐えきれず、私はベッドの端に崩れ落ちた。

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六年間、身を粉にして尽くしてきた日々は、何の意味もなかったのだ。

絶望の中で目にしたのは、かつて母が手にした科学界の最高栄誉であるトロフィー。
その輝きが、私に本来の自分を思い出させた。

私はエプロンを脱ぎ捨て、白衣を纏う。
もう誰かの妻でも、母でもない。一人の科学者として、世界を驚かせるために。

数々の賞を総なめにし、頂点に立った私を見て、元夫は顔面蒼白で崩れ落ちた。
震える声で私の名前を呼び、足元に縋り付く彼。

「行かないでくれ……君がいないと、俺は……」

かつて私を見下していたその瞳が、今は絶望と後悔に染まっていた。
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