第3章

 翌朝、西野光はくっきりと隈のできた顔で食卓に現れ、目の前の目玉焼きを睨みつけて眉をひそめた。

「卵は食べないって言ったはずだけど」

 母はすぐに手にしていた湯呑みを置き、腰をかがめて頭を下げた。

「ごめんなさい、光くん。忘れてたわ。すぐに作り直すからね」

 母は素早く皿を下げると、光の視線を慎重に避けながら、私に痛みが走るほど手慣れた動作で立ち去った。この光景は我が家で既に数えきれないほど繰り返されてきた。母はいつも、善悪に関わらず真っ先に義兄に謝罪するのだ。

 私は黙って味噌汁を啜り、昨夜光の鞄から見つけ出した数学の宿題を彼の前に放り投げた。

「自分でできないわけ? それとも、私の母を家政婦か何かと勘違いしてるの?」

 食卓の空気が一瞬で凍り付く。光は顔を上げ、声を低くした。

「朝っぱらから何を狂ってるんだ?」

 彼の目には警告の光が揺らめいていた。以前の私ならすぐに俯いて謝っていただろうが、今は違う。

「ええ、今の私はあまり品が良くないから。だから、私を怒らせないで。さもないと、学校でもその偽りの仮面を保てなくさせてあげる」

 私は彼の目をまっすぐに見据え、静かだが、しかし断固とした声で言った。

 光の表情は怒りから驚きへと変わる。彼は素早く立ち上がった。

「もう行く。朝の自習に間に合わないから」

 彼は鞄を掴むと、家の運転手を奪い取るべく玄関から飛び出していった。

「凛、光くんにあんな言い方しちゃだめよ」

 母がキッチンから顔を覗かせ、その目には心配の色が満ちていた。

「光は一応……」

「一応何? 義理の兄? それとも私たちがご機嫌を取るべき相手?」

 私は母の言葉を遮った。

「そういえば、西野のおじさんは昨夜帰ってこなかったの?」

 母の表情がわずかに強張ったが、すぐに無理な笑みを浮かべた。

「大事なお客様とのお食事で、ホテルに泊まったのよ。ほら、ビデオメッセージも送ってくれたわ」

 彼女はスマートフォンを取り出し、LINEのビデオ録画を再生した。ビデオの中の西野俊介はスーツをびしっと着こなし、背景はホテルの部屋のようだ。彼は仕事のことについて説明している。

 しかし、私はビデオの右下隅に一瞬映り込んだものを見逃さなかった——玄関に、大小二足の室内スリッパが置かれていたのだ。

「大変ね、お客様とそんなに遅くまで」

 私は平坦な声で言い、空になったお椀を流し台に置いた。

 ―――

「葉月さん、英語の宿題を集めてくれるかな」

 英語教師が私に名簿を手渡した。

 私は頷き、教室で宿題のノートを集め始めた。クラスの中心グループにいる女子生徒たちの前へ来た時、彼女たちは視線を交わした。

「葉月さん、昨日ちょっと体調が悪くて、宿題できなかったの」

 中村美月が、言わなくてもわかるでしょ、といった表情で小声で言った。

「私も、頭が痛くて……」

 別の女子生徒が同調する。

「ええ、わかったわ」

 私はにっこりと微笑んだ。

 彼女たちはほっと息をついたが、その直後、私が名簿に未提出とはっきり印をつけているのを見て目を見開いた。

「葉月! 何してるのよ!」

 中村が私の手首を掴んだ。

「事実を記録してるだけ」

 私は静かに答え、手首を振りほどいて宿題集めを続けた。

「葉月凛、西野くんが君のことを、彼の物理のノートに『バカ』と書いたと言っているが、本当かね?」

 物理教師の表情は険しい。

 私は職員室に立ち、傍らで勝利の笑みを浮かべている西野光と、宿題未提出の女子生徒たちを見つめた。

「西野くんの宿題はとても大事なものですから、私が落書きなどするはずがありません。それより、誰がずっと他人の宿題を写していたのか、調べてみた方がよろしいのでは?」

 私が静かに答えると、西野光の表情が瞬時に強張り、その目に一筋の動揺が走った。ここ数ヶ月、私が仕上げた宿題はすべて、彼にあらゆる理由をつけて写されていたのだ。

「葉月さん、教室に戻りなさい。西野くん、保護者に連絡してください」

 物理教師はそう言った。

「葉月、お前、自分の立場を忘れたのか?」

 西野光は廊下で私を待ち伏せし、ノートを私の目の前に叩きつけた。その目は怒りの炎に燃えている。

 私は答えず、代わりにすっと背筋を伸ばすと、彼のネクタイを掴んで壁際に押し付けた。

「私の立場はもう変わったの」

 私は彼の耳元に囁いた。

「あなたと違って、今の私は体面を保つ必要がない。試してみれば? これから、どちらがどちらの脅しを恐れることになるか」

 私は彼のネクタイを放し、彼が狼狽しながら制服を整える様を見つめた。その顔には、驚愕から怒り、そして困惑へと変わる表情が浮かんでいる。

 彼には何が起こったのか理解できないだろう。だが、今日から彼は知るはずだ。もはや私を思い通りにはできないということを。

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