モラルを売り渡したら、私はKYな女になった。でも、それで本当の自分を手に入れた

モラルを売り渡したら、私はKYな女になった。でも、それで本当の自分を手に入れた

渡り雨 · 完結 · 17.3k 文字

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紹介

「私は五億円で自分のモラルを売り渡した。
それ以来、富を手に入れただけでなく、私を縛り付けていた『品性』という名の鎖からも解放された。
もう我慢しない。もう従わない。義理人情に囚われることもない。
こうして、私はようやく、本当の自分として生きられるようになったのだ。」

チャプター 1

 バスケットボールが肩に当たり、痛みが瞬く間に広がった。

 私は顔を上げず、ただ身を屈めて足元に転がってきたボールを拾い上げた。

「葉月、その体操服は規定違反だ」

 風紀委員長の西野光が、グラウンドの中央に立っていた。背後にはくすくすと笑う女子生徒たちがいる。

 彼は眼鏡を押し上げ、私を見下ろしながら言った。

「自販機でスポーツドリンクを買ってこい。全員分だ」

 十一月の風は冷たく、薄い体操服一枚の私は、寒さで両手が微かに震えていた。

 これが初めてではない。西野光はいつも、私を衆人の笑い者にするためのもっともらしい理由を見つけ出すのがうまかった。

「葉月、もう少し空気を読んでください」

彼は言った。

 西野光は私より二ヶ月年下で、継父である西野俊介の息子だ。三年前、母が再婚したことで私たちは家族になった。しかし学校では、西野光は誰にも私たちの関係を口外することを禁じていた。

 全校生徒が、私を西野光のパシリだと思っている。

 母がよく口にしていた言葉を思い出す。

「凛、人に迷惑をかけないでね」

 彼女の声はいつもひどく優しく、まるでこの世で最大の罪は他人を困らせることだと言わんばかりだった。

 私は顔を上げてグラウンドにいるクラスメイトたちを見渡す。彼らの視線は期待に満ちていた——私がいつも通り、従順に行動することを期待している。

 集団の圧力で異分子を窒息させることこそ、誰もが得意とすることだ。

 けれど、今日の私は違う。

 もう空気を読む必要はない。表面的な調和を壊すまいと、我慢する必要もない。

 手の中のバスケットボールを握りしめると、ふと、今までにないほどの解放感を覚えた。

 私は腕を振り上げ、力いっぱいボールを西野光の顔面めがけて投げつけた。

「ふざけんな!」

 私は大声で叫んだ。

 グラウンドは一瞬で静まり返り、誰もがまるで異形の生物でも見るかのように、目を丸くして私を見つめていた。

 西野光は顔を覆い、信じられないといった様子で私を見る。

「葉月、自分の立場を忘れたのか?」

「私は私よ」

 私は冷静に答えた。

「もうあんたのパシリじゃない」

 三日前、一本の匿名メッセージが私の人生を変えた。

『あなたの最も美しい美徳を、五億円で買いたい』

 メッセージにはそう書かれていた。

 最初は悪戯だと思ったが、相手は銀行口座の証明を送ってきた。五億円。一等地がひしめくこの街で、まともなマンションを買い、母と二人で再出発するには十分な金額だ。

 私は長い間考えた。私の最も美しい美徳とは何だろう?

 従順さ? 忍耐? それとも、社会から強いられた、空気を読むという能力?

 私は相手に返信した。『私の道徳を売ります』

 取引が完了したその日、私は変化を感じた。

 満員電車で、一人の老人が私の前に立ち、期待に満ちた眼差しで私の座席を見ていた。

 以前の私ならすぐに席を立っただろう。しかしその日の私は、ただ彼の目をまっすぐ見つめ、静かに言った。

「何見てるんだ?」

 車内の人々は驚愕の眼差しで私を見たが、不思議なことに、私は全く気にしなかった。

 今、西野光の怒りを前にしても、私は同じように平静だった。

「気でも狂ったのか? 父さんと理沙叔母さんに言ってやる!」彼は脅してきた。

 私は冷ややかに笑う。

「子供っぽいね。私が今まであんたに我慢してたのが、あんたを尊重してたからだとでも思った? ただ社会が求める道徳を守ってただけよ」

 放課後、私は学校のトイレで西野光のクラスのカースト上位の女子たちに囲まれた。

 彼女たちは私に冷水を一桶、浴びせかけた。

 十一月の初冬、水は刃物のように肌を切り裂く。

「西野君に謝りなさいよ」

 リーダー格の女子が命じた。

「あんたがクラスの和を乱したんだから」

 以前の私なら泣いて謝り、人に迷惑をかけることを恐れただろう。しかし今の私は、ただ怒りを感じるだけだった。

「謝る? だったらあんたたちは、どうして私に謝らないの?」

 私は二人の女子の首根っこを掴み、洗面台の水の中に彼女たちの頭を押し付けた。

 彼女たちはもがき、その目には信じられないという色が浮かんでいた——いつもおどおどしていた私が、直接的な暴力に訴えるとは夢にも思わなかったのだろう。

「あんたたちの制服、ちょっと借りるわね」

 私は冷静に言い、彼女たちの乾いた体操服を剝ぎ取って身につけた。

「これは窃盗じゃない。借用よ。明日、私の服を綺麗に洗って、ビニール袋に入れて、私の下駄箱に入れておきなさい」

 そう言い残し、私はその場を立ち去った。

 おかしい。こんなこと、以前の私にできただろうか?

 五億円と引き換えに手に入れたのは、富だけじゃない。自由だったのだ。

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