第6章
スーツケースを床に広げ、一枚一枚服を畳んでいく。
「もう行っちゃうの?」
佐藤杏がドアフレームに寄りかかり、私が最後のセーターをスーツケースに収めるのを見つめている。
「うん、航空券はもう予約したから」
私は顔も上げずに、努めて明るい声で答えた。
「明後日の朝の便で、まずは北海道に行くの」
「じゃあ、渡辺のことは……」
「この七年間は、何もなかったことにする。そろそろ次に進むべき時よ」
私は顔を上げて彼女に微笑みかけた。
「聞いた話だと、彼の会社はもう彼を後方支援部門に異動させたみたい。評判は完全に地に落ちたって。自業自得ね」
佐藤杏は何も言わず、ただこちらへ歩...
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