第1章

西園寺昴は四時間に及ぶ国際会議を終え、ようやく休憩室へと戻ってきた。

彼は何気ない動作でスーツの上着を脱ぎ捨てる。シャツ越しにも分かる引き締まった肉体、ベルトの下に伸びるすらりとした長い脚が、その洗練された立ち姿を際立たせていた。

シャツの第一ボタンを外したその時、背後から微かな物音が聞こえた。

瞬時に彼の瞳が凍りつき、警戒心が走る。

「誰だ?」

物陰から笑顔で現れたのは、白石凛だった。彼女は猫のように彼の懐に飛び込み、胸元に顔を擦り寄せる。

「驚いた?」

西園寺昴の表情を覆っていた氷河が一瞬にして溶け落ちた。彼は愛おしそうに腕の中の彼女を抱きしめ、その額に口づけを落とす。

「どうしてここに?」

白石凛は彼を見上げた。その瑠璃のように美しい瞳には、万千の星々が宿っているかのようだった。

彼女は少し恥ずかしそうに口を開く。

「お医者様が、もう体調は万全だって。それにこの数日は妊娠しやすい時期だから、私たちが頑張れば、きっとすぐに良い知らせが来るはずよ」

言い終える頃には、彼女の白く透き通るような耳は真っ赤に染まっていた。

彼女は生まれつき妊娠しにくい体質で、芸能界を引退してからはずっと体調管理に専念してきた。

特に最近は、毎日渋くて苦い漢方薬を飲み続けている。

西園寺昴がずっと子供を望んでいることを、彼女は知っていた。

しかし最近、支社の方でトラブルがあり、彼自らが処理に出向かなければならなかった。だから彼女もこっそりとついてきたのだ。今回こそは、良い知らせを届けたいと願って。

白石凛の指先が、悪戯っぽく西園寺昴の鍛え上げられた腹筋の上で円を描く。その指はゆっくりと下へ滑り落ち、ベルトに指をかけながら、彼の耳元で蘭のような吐息を漏らした。

「会議は終わったんでしょう? もう誰も邪魔しに来ないわよね」

西園寺昴の喉仏が動く。その瞳の奥には、煽り立てられた情欲の炎が揺らめいていた。

「ああ、来ないさ。だが、火をつけた本人は覚悟しておけよ。自分でつけた火は、自分で消してもらうからな」

言うが早いか、彼は白石凛のしなやかな腰を力強く抱き寄せ、大股で奥のベッドへと向かった。

白石凛は思わず小さな悲鳴を上げ、白く柔らかな両腕を西園寺昴の首に回す。その唇には、艶やかな笑みが浮かんでいた。

窓の外ではいつの間にか小雨が降り始めていた。開け放たれた窓から風が吹き込み、テーブルの上の観葉植物を揺らしている。

男の抑えた荒い息遣いと、女の甘く切ないあえぎ声が重なり合い、妙なる旋律を奏でていた。

全てが終わった後、西園寺昴は白石凛を抱きかかえてバスルームへ行き、体を洗ってやった。

灯りの下、羊脂玉のように白くなめらかな白石凛の肌には、紅梅のような痕が点々と刻まれている。その光景は、見る者の心を震わせるほどに美しかった。

彼女はまるで、空気中で最も濃厚に咲き誇る罌粟の花のようだ。

一度味わえば、骨の髄まで侵されてしまう。

西園寺昴は丁寧に彼女を洗い清め、薄いブランケットで包んでからソファへと下ろした。

「腹は減ってないか? アシスタントに何か持ってこさせよう。夜になったら外へ食事に行こう」

「お腹は空いてないわ」

白石凛は首を振ったが、ふとソファの足元に一本の口紅が落ちているのに気づいた。

彼女の表情がわずかに曇る。

だが、二人が幼馴染として過ごしてきた長い歳月と、西園寺昴が彼女に注ぐ骨身に染みるほどの愛を思い出す。

彼らは共に一族の中での「お荷物」であり、隠された存在だった。

幼い頃から差別される立場にあった二人は、互いに寄り添い、青春時代を共に歩んできたのだ。

白石凛は気を取り直した。きっと女性の取引先が商談に来た際、うっかり落としていったのだろう。

しかし、彼女はある一つの事実を見落としていた。

ここは西園寺昴のプライベートな休憩室であり、彼の許可なしにはアシスタントさえ立ち入れない場所だ。ましてや女性の来客などあり得ない。

商談ならば、他の公の場所で行うはずだ。

この一週間、二人は情熱的に愛し合い、場所を変え、あらゆる体位を試した。

最終的に、彼女はベッドから起き上がる力さえ残っていなかった。

蚕の糸で織られたシーツの上で、彼女は海藻のように豊かな髪を散らして仰向けになっていた。

白石凛は瞳を潤ませ、どこか儚げな様子で西園寺昴を見つめる。

「あなた、少し休みましょう。もうくたくたよ」

西園寺昴は彼女の顔の横に手をつき、溢れんばかりの優しさを瞳に湛えていた。

「凛、俺は永遠に君を愛してる」

「私もよ」

今回の情事は、これまでの優しさとは異なり、どこか強引で、独占欲に満ちていた。まるで白石凛を自分の側に縛り付けておこうとするかのように。

白石凛は疲労の極みにあり、うとうとしていたが、ふと足首に冷やりとした感触を覚えた。

無意識に目を開けると、自分の足首にあの『人魚の涙』が飾られているのが見えた。

鳩の卵よりも大きなサファイアがダイヤモンドで縁取られ、繊細なチェーンとなって彼女の足首に幾重にも巻き付いている。

照明の下、サファイアは眩いばかりの輝きを放っていた。

これこそが先日、頻繁にトレンド入りしていた最高級の宝石、落札価格数千万にものぼる唯一無二の『人魚の涙』だった。

西園寺昴は丁寧に留め具をかけると、すぐには手を離さず、彼女の小さく丸みを帯びた足を握りしめた。

「気に入ったか?」

白石凛が足首を動かすと、人魚の涙もそれに合わせて小さく揺れた。

「ええ、好きよ」

宝石類に対して特別な感情はなく、価格など気にしたこともなかった。

なぜなら、西園寺昴はいつも最高で最も貴重なものを彼女の前に運んでくるからだ。

西園寺昴は横になり、背後から彼女を抱きすくめた。

「気に入ってくれてよかった。オークションのニュースを見て、半日時間を作って落札してきたんだ。君のために」

「あなた、本当に優しいのね」

白石凛は深い眠気に襲われ、そう呟くとすぐに寝息を立て始めた。

彼女は気づかなかった。西園寺昴の瞳に宿る強烈な独占欲にも、彼が耳元で囁いた言葉にも。

「たとえ子供ができなくても、俺は永遠に君を愛する。俺から離れないでくれ、凛……」

翌朝。

白石凛が目を覚ますと、隣に彼の姿はなかったが、ナイトテーブルには一杯の白湯が置かれていた。

これは西園寺昴の変わらぬ習慣だ。

白石凛はシルクのパジャマに着替え、白湯を飲み干してから、スリッパを履いてゆっくりと階下へ降りた。

シルクの絨毯の上を歩いてリビングへ行くと、そこには既に多くのギフトボックスが積み上げられていた。

掃除をしていた家政婦が、白石凛の姿を見てすぐに声をかける。

「奥様、お目覚めですか。これは旦那様が手配された、業界の最新デザインの品々です」

白石凛は頷いた。

「分かったわ」

彼女は階段を降り、何気なく箱の一つを開けた。中には精巧なデザインのジュエリーが収められており、彼女の瞳に懐かしさが滲む。

引退して数年、デザインの世界からは離れていたが、西園寺昴は毎回こうして他のデザイナーの新作を彼女に届けさせていた。

彼女は無意識に下腹部に手を当てた。その瞳には期待と切望が宿っている。

今回こそは妊娠していますように。

西園寺昴はずっと待ち望んでいる。

そろそろ、二人だけの子供ができてもいい頃だ。

「これ、私の部屋に運んでおいて」

白石凛が思考を切り替え、そう指示した直後、携帯電話に新着メッセージが届いた。異父妹の神田ミユからだった。

それは一枚の妊娠検査報告書の画像だった。

続いて、挑発的なメッセージが届く。

『お姉ちゃん、私妊娠しちゃった。父親が誰だか分かる?』

白石凛は思わず携帯電話を握りしめた。

子供ができないことは、彼女の心に刺さった棘だった。

神田ミユは、あろうことかそのことで彼女を嘲笑おうとしているのだ。

だが、次に送られてきた写真を見た瞬間、白石凛の顔から血の気が完全に引いた。携帯電話が手から滑り落ち、床に音を立てた。

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