第17章 綾瀬美月を職場へ送る謎の男

綾瀬美月は熟睡している綾瀬陽を抱きしめ、橘奏太の清冽な松の香りが漂うコートを羽織っていた。

九死に一生を得たような安堵と、胸を締め付ける苦い思いが静かに込み上げてくる。

彼女だって鉄でできているわけではない。先ほどの対峙と、桐島蓮が見せたあまりの非情さに、心が凍りつかなかったと言えば嘘になる。

そして橘奏太はいつもこうだ。彼女が最も惨めでボロボロな時に、まるで計算し尽くしたかのようなタイミングで現れ、絶妙な救いの手と尊厳を与えてくれる。

「ありがとう」

彼女の声は少し枯れており、心からの感謝が滲んでいた。

「また、迷惑をかけちゃったわね」

橘奏太はバックミラー越しに彼女を一瞥し...

ログインして続きを読む