第186章 今に見ていろ

車はセルマンの混沌と黄昏を背に、最寄りの空港へと滑らかに走り出した。

閉ざされた窓が外の喧騒と危険を遮断し、車内は二人だけの密室と化す。

ハンドルを握るのは氷室龍一、助手席には綾瀬美月。

二人の間に言葉はない。雨林での死闘と、山小屋での理性を失ったような口づけ――それらが全ての精根を使い果たさせたようであり、同時に、互いの関係に新たな、心臓が痛くなるほどの熱量をもたらしていた。

沈黙は気まずいものではなく、むしろ艶めかしい緊張感を孕んで漂っている。

綾瀬美月はそっと顔を向け、運転に集中する氷室龍一の横顔を盗み見た。

傷を負って尚、その冷徹で整った相貌からは、生来の強烈な覇気が滲み...

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