第2章 ただの雑種

綾瀬美月は震える手で、その扉を押し開けた。

陰湿で冷たい空気が顔に吹き付ける。

窓のない部屋。ワット数の低い裸電球が一つだけ、頼りない光を放ち、狭く圧迫感のある空間を辛うじて照らし出していた。

これは、子供が住むべき部屋ではない!

あるのは硬そうな簡易ベッドが一つだけ。その上には薄く、カビ臭い布団が敷かれている。

そして、そのベッドの隅に、小さく丸まった影があった。

その子は異常なほど痩せ細り、サイズも合わない薄汚れた服を着ていた。

顔色は蒼白で、髪は枯れ草のようにパサついている。その小さな手で乾いて硬くなったパンを抱え、少しずつ、少しずつ齧っていた。

ドアの開く音に、彼は怯えたように顔を上げた。大きな瞳は恐怖と臆病さで満たされ、まるで捨てられた子猫のようだ。

見知らぬ人影に、彼は驚いて壁際に縮こまり、手にしたパンを取り落とした。小さな体がガタガタと震えている。

綾瀬美月は雷に打たれたように硬直し、全身の血液が凍りついた。

これが……私の息子?

獄中で来る日も来る日も想い続けた我が子が? 桐島家はいつから子供一人養えないほど貧窮したというの?

私の息子が、こんな場所に閉じ込められているなんて?! まるで日の目を見ない鼠のように!

「……」

綾瀬美月の声は形を成さないほど震え、涙が堰を切ったように溢れ出した。

彼女はほとんど飛びつくようにして、その哀れな子を抱きしめようとした。

だが子供は、彼女の動作に悲鳴を上げ、激しく身を引いて膝に顔を埋め、甲高い嗚咽を漏らした。

桐島蓮! どうしてこれほど残酷になれるの?! 私を憎むのはいい、でも子供は無実でしょう!

巨大な悲しみと怒りが瞬く間に彼女を支配し、理性を飲み込んだ。

彼女は猛然と踵を返し、暗い小部屋を飛び出した。狂ったように走り、あの喧騒に満ちたホールへと戻る。

彼女の再登場にパーティーは再び中断された。全員が、狂乱の形相で戻ってきた彼女を驚愕の目で見つめる。

桐島蓮はグラスを片手に談笑しており、その傍らには白石麻里奈が艶然と微笑んでいた。

綾瀬美月は桐島蓮の目の前まで突進し、涙に濡れた顔で、来た方向を指差した。極限の怒りと苦痛で、その声は金切り声のように鋭く枯れていた。

「桐島蓮! あなたそれでも人間なの?! あれはあなたの子供よ! どうしてあんな場所に閉じ込めたりできるの?! あの子はまだ小さいのよ! 暗闇を怖がってる! お腹を空かせてる! 私が叩くんじゃないかって怯えてた! あの子に一体何をしたのよ?!」

支離滅裂な言葉で、彼女は崩れ落ちそうだった。

桐島蓮はグラスを置き、冷ややかな目で彼女を見下ろした。まるで下手な芝居でも見ているかのように。

「俺の子供?」

彼は鼻で笑った。その響きは残酷極まりないものだった。

「綾瀬美月、DNA鑑定はとっくに済んでいる。まだしらばっくれて、あれが俺の種だと言い張るつもりか?」

「あれは、お前がどこの馬の骨とも知れない野郎と作った不義の子だ。俺が飯を食わせてやり、野垂れ死にさせずにいてやるだけで、十分慈悲深いだろう」

「住む場所だと?」

彼は彼女が来た方向を一瞥し、どうでもよさそうに言った。

「野良犬には、雨露をしのげる場所があるだけで上等だ!」

「人でなし!」

綾瀬美月は、その所謂DNA鑑定とやらがどこでどう間違ったのか分からなかったが、完全に自制を失った。手を振り上げ、彼を打とうとした。

だが、その手首は桐島蓮にいとも容易く掴まれた。骨が砕けそうなほどの力で締め上げられる。

「三年の監獄暮らしでも、礼儀作法は学べなかったようだな」

彼は乱暴に彼女の手を振り払い、警備員に向かって鋭く命じた。

「この狂った女を摘み出せ! 二度と中に入れるな。入れたら全員クビだ!」

警備員たちはもはや躊躇わなかった。虚脱状態に近い綾瀬美月を乱暴に抱え上げ、容赦なく外へと引きずっていく。

まるでゴミを捨てるかのように、冷たく湿った地面に彼女を叩きつけた。

いつの間にか降り出した秋雨が、しとしとと彼女の薄い服を濡らしていく。冷気は骨の髄まで侵入したが、心の中の寒涼には遠く及ばなかった。

別荘からは再び音楽が流れ出し、微かな笑い声が混じる。先ほどの悲痛な叫びなど、最初から存在しなかったかのようだ。

彼女の存在も、彼女の苦しみも、中の人々にとってはただの興醒めな余興に過ぎないのだ。

雨の降る地面に座り込み、雨水と涙で視界が滲む。寒さと極度の悲痛で、体の震えが止まらない。

脳裏には、あの子供の怯えた瞳、痩せ細った背中が焼き付いている。それは鈍いナイフとなって、彼女の心臓を何度も何度も切り刻んだ。

その時、一足の精緻なダイヤモンド飾りのハイヒールが、彼女の目の前で止まった。

綾瀬美月は茫然と顔を上げる。

白石麻里奈が、レースの縁取りがされた高級な傘を差し、彼女を見下ろしていた。その顔には、勝者特有の憐れみと嘲笑が浮かんでいる。

パーティーの主役がわざわざ一人で出てきたのは、決して温情をかけるためではない。

「あら、桐島の奥様じゃありませんか。そんな雨の中に座り込んで、お風邪を召しますわよ」

白石麻里奈の声は相変わらず甘ったるいが、そこには深い悪意が潜んでいた。

「ああ、忘れてたわ。もうすぐ奥様じゃなくなるんだった。蓮さんはもう弁護士に離婚協議書を用意させているもの」

綾瀬美月は彼女を睨みつけた。唇が震えるが、声が出ない。

「見てその無様な姿。本当に可哀想」

白石麻里奈は靴先で地面の水たまりを軽く弾き、泥水を綾瀬美月のズボンの裾に跳ねさせた。彼女はくすくすと笑う。

「でも自業自得よね。桐島の奥様という座にいながら、それを大切にせず、外で男を作って、会社の金にまで手を出すなんて、馬鹿な人」

「私はやってない!」

綾瀬美月は掠れた声で反論したが、雨音にかき消され、あまりに無力だった。

「やってないことが重要かしら?」

白石麻里奈は身を屈め、二人にしか聞こえない声量で、毒を含んだ快感を込めて囁いた。

「重要なのは、蓮さんが『やった』と信じていることよ。重要なのは、今勝っているのが私だということ。あなたの全ては、もうすぐ私のものになるの。桐島の奥様の座も、蓮さんの愛も、桐島家の何もかも……ああ、そうそう、あの薄汚い野良犬もね」

「野良犬」という言葉に、綾瀬美月は猛然と顔を上げ、食い殺さんばかりの形相で彼女を睨んだ。

白石麻里奈はさらに楽しげに笑う。

「そんな目で見ないで。自分がだらしないからいけないのよ、誰の種かも分からない子を孕んで。蓮さんが鑑定書を見た時の顔、見ものだったわよ。あんな汚らわしい生き物を生かしておくだけでも、彼にとっては最大の『慈悲』なの。それを坊ちゃん扱いしろだなんて、図々しいにも程があるわ」

「お前が……全部お前が仕組んだのね……」

綾瀬美月は歯を鳴らし、憎悪を滾らせた。

白石麻里奈は体を起こし、優雅にドレスの裾を撫でた。その笑顔は無邪気で、残酷だった。

「滅多なことを言うものじゃないわ、美月お姉様。証拠は? 三年前にもなかったのに、出所したばかりの前科者の言葉を、誰が信じるというの?」

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