第238章 私は氷室龍一の女

「ママ!」

目を輝かせ、筆を放り出して駆け寄ってくる。綾瀬美月の胸に飛び込むその頬は、興奮で赤く染まっていた。

「どうしてここへ? 僕、今コンクールの資料を見てたんだ! 面白いものがいっぱいあるよ!」

美月はしゃがみ込み、息子を強く抱き締めた。

ミルクの甘い香りと、微かな機械油の匂いが混じる小さな肩に顔を埋め、深く息を吸い込む。

顔を上げた彼女は、完璧なまでに優しい母の笑みを浮かべていた。

「ママは知ってるわ。ハルが一番すごいってこと。……何か難しいことがあった?」

「うん!」

綾瀬陽は力強く頷き、美月の手を引いて作業台へと向かう。本にびっしりと書かれた数式や図面を指差した。...

ログインして続きを読む