第315章 来客

彼女の声は静かだった。だが綾瀬美月には、その静けさの下で渦巻くものが聞き取れてしまう。

「私の母親――野名幸恵」

シュエットは続けた。今度は声の端に、滅多に見せない柔らかさが滲む。

「馬鹿な女だった。捨てられても、暮らしが苦しくて市場で腐りかけの菜っ葉を拾うようになっても……あの男の悪口を、一度も言わなかったの。いつも私に言ってた。『あなたのお父さんにはきっと事情があるのよ。帰ってくるわ』って」

「でも、帰ってこなかった」

シュエットの目が冷たくなる。

「三年後、確かに帰ってきたわ。償いにじゃない。黒服を連れて――学校から、私をそのまま攫っていった。十一の時」

綾瀬美月の胸が、...

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