第42章 あの男

彼は、彼女が慣れた手つきでベッドを整え、衣類を畳み、ハルの玩具を一つずつ元の場所へ戻していく様子を見つめていた。その無駄のない動作は、彼をいつしか遠い過去へと連れ戻していた。

結婚したばかりの頃、綾瀬美月はいつもこうだった。

家の中は完璧に整えられ、窓辺には絶えず鮮やかな花が飾られ、キッチンからは夕食の温かい香りが漂っていた。家に帰るたび、彼はそこに「家庭」という名の安らぎを感じていたのだ。

ただ、あの頃の彼はその尊さを知らなかった。

「美月……」

彼は掠れた声で口を開いた。

「昔も……家はこうだったな。君はいつだって、家の中を綺麗に整えてくれていた」

綾瀬美月の手がぴたりと止...

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